代表的な非鉄金属である銅の国際相場が5月、指標になるロンドン金属取引所(LME)の3ヶ月先物で一時1㌧1万700㌦台まで上昇し、2011年2月に記録した史上最高値(1万190㌦)を10年振りに更新した。LMEの超長期の先物は、高値は一時的では無く「銅価1万㌦時代」の到来も示唆している。
銅相場は中国経済の台頭が顕在化する03年まで、30年にわたって1000~3000㌦のレンジを上下し、3000㌦を超える場面では高騰と言われた。ところが、中国が銅の消費を急増させ、相場水準は05年に4000㌦を超え、06年には8000㌦を突破した。
21世紀に入って銅相場の常識を変えたのは世界消費の半分を占めるようになった中国で有り、世界景気を見る「ドクター・カッパー」も主に中国経済を診断するようになった。昨年来の相場回復も、コロナ禍をいち早く脱した中国がけん引したのは間違いない。銅と同じく中国が大量消費する鉄鉱石の国際スポット相場も11年に記録した最高値を更新している。
しかし、上昇を続ける銅相場には新たなストーリーが加わった。米ゴールドマン・サックスは「Copper is the new oil」と題するリポートを4月に公表。世界が脱炭素に挑むグリーン革命が銅の消費を飛躍的に拡大させ、銅相場は今年の平均が9675㌦、22年が1万1875㌦、25年が1万5000㌦と切り上がる事を予測した。
2000年代に入り銅相場の常識を変えたのが中国なら、今回は脱炭素が新たな常識をつくる訳だ。銅だけでなく、ニッケルやプラチナ、リチウムなど脱炭素に不可欠な金属資源が長期にわたって値上りする可能性は否定出来ない。
その意味で、興味深いのはLMEの長期先物相場だ。LMEは米国の先物取引所のような限月取引を導入せず、一定期間先の取引を日々繰り返していく手法をとる。指標になるのは3ヶ月先の取引だが、それより先の取引もあり、最も長い取引は123ヵ月先の31年になる。実際には3ヶ月先物とのスプレッドが取引され、銅の場合その差は3日時点(3ヶ月先物は9800㌦弱)で1㌧400㌦程度にすぎない。非鉄金属コンサルタントは、「10年でわずか400㌦しか差がない」。「10年後に9400㌦前後の売値がぶら下がっているのに、鉱山が利益確定の売りヘッジを全くと言っていいほど出していない事を意味する。なぜ鉱山会社は利確にうごかないのか。理由の一つに考えられるのが開発・生産コストの増大だ。コストが10年後にどれ位まで上がっているのかは予測しにくい。
<2021年6月7日 日本経済新聞より>
銅及び銅に関連する業界として、銅相場の長期にわたる高値によるメリット・デメリットを洗い出し、その対応を検討する事が大事だと思いますが、個々での対応ではなく、業界として取り組んで欲しいと思います。