非鉄の代表格である銅の市場で中国の「硫酸リスク」が注目を浴びている。新型肺炎の感染拡大を背景にした物流の停滞で中国の精錬企業が副産物の硫酸を放出出来ず、精錬規模の縮小を余儀なくされる可能性が出たためだ。世界最大の銅消費国である中国では銅地金の自国生産に向けた構造変化が進む。未知の感染症の拡大は、変貌を遂げる中国の銅産業における新型の問題を浮き彫りにした。
国際指標となるロンドン金属取引所(LME)の3ヶ月先物価格は3日に1トン5525ドルと終値として2017年5月以来、2年8か月振りの安値をつけた。
新型肺炎の感染拡大で中国経済が停滞し製造業の需要が鈍るとの不安により、銅相場は1月下旬から急速に水準を下げた。一時は5000ドル台前半まで下落すると危惧されたが、その後持ち直し、足元では5800ドル前後で推移している。急落による割安感からの買戻しや中国の景気刺激策など、反発をもたらした要因は複数ある。その中でとりわけ注目されたのは、中国の銅地金生産量が一時的に減るとの懸念だ。
一般的な銅精錬では、原料となる精鉱やスクラップを溶解して銅分を取り出す際に二酸化硫黄(SO2)ガスが発生する。ガスに含まれる不純物を除去し、触媒に反応させるなどして硫酸ができあがる。中国では銅を1トン精錬するごとに平均で3.6トンの硫酸を生産すると試算する。
劇物の硫酸は環境や健康への被害を防ぐ為に貯蔵タンクに厳重に保管する必要がある。物流の停滞で硫酸の出荷が滞り、貯蔵タンクが満杯になれば、精錬所は操業を否応なしに止めなければならない。精錬企業にとって物流の停滞は原料の調達難と硫酸の積み上がりをもたらす二重の足かせだ。物流の停滞を背景にした硫酸リスクは中国の銅産業における新型の問題もあぶり出した。硫酸の供給過剰問題だ。
自国での鉱物資源の付加価値を高める狙いから「中国では今後も銅精錬が増加する」との見方が優勢だ。必然的に硫酸の供給も伸び、物流の混乱が落ち着いたとしても、硫酸の供給過剰問題は付きまとい続ける。新型肺炎の拡大があぶり出した中国の銅産業における硫酸リスクはすぐに根絶する気配がなさそうだ。
<日本経済新聞 2020.2.26より>
2月最終週の株価と銅相場の相関が薄かったことから、5600ドル/tが底という話もあります。一方で新型肺炎拡大による製造業の銅需要減や、銅地金供給減をマーケットがどう捉えるかによって相場の底は簡単に抜けることもありそうです。
しばらくは、必要なモノ買いが正解でしょう。