「資源ナショナリズム」が再燃し始めた。資源高の恩恵をより多く自国に取り込もうと、外資が多い鉱山会社への大幅な増税案などが南米やアジアで議論されている。脱炭素の流れが強まり、発電設備に必要な銅などが高騰しているからだ。一方、政策の不確実性から鉱山会社は増産に向けた投資に踏み出しにくくなっている。需給逼迫で銅などの価格が更に上昇すれば、結局は「脱炭素の停滞」というパドラックスに陥る恐れがある。
「増税は鉱山運営の継続性に深刻な影響を及ぼす」。4日、チリで開かれた上院鉱業エネルギー委員会。チリ北部のエルアブラ銅鉱山を運営する米鉱山大手フリーポート・マクモランのコスタバル氏は、審議中の増税案に反対を訴えた。銅の価格上昇に応じた累進税などを新たに課すもので、5月に下院を通過した。法案が制膣すれば、鉱山会社の実質的な税負担は現在の40%前後から80%まで上昇する可能性がある。
チリは世界一の銅産出国だ。その屋台骨を支える鉱山会社を狙い撃ちにした増税案は、銅の産出量減少などを通じて経済に負の影響をもたらすとの指摘も少なくない。「自殺行為のような法案」と業界は批判する。
一方、世論は増税案に一定の理解を示す。新型コロナ禍に伴う景気悪化が深刻になるなか、外資の鉱山会社を「富を収奪する存在」と見なす国民は増えている。こうした不満に付け込んだ「資源ナショナリズム」は、南米で広がる「左派ポピュリズム」と表裏一体の存在だ。2位の銅産地である隣国ペルーでも、チリと同様の波が高まっている。
足元の相場はピークを下回っているものの、なお歴史的な高値圏にある。こうした局面では、資源高の恩恵をもっと取り込みたいとの政治的な声が強まりやすくなり、消費国とのパワーバランスが資源国優位に傾きやすくなるという事情もある。
厄介なのは「脱炭素」という風が吹いていることだ。世界的な脱炭素の流れが資源相場を押し上げ、それに呼び寄せられた資源ナショナリズムが増産投資を停滞させるという矛盾した状況が訪れるのか。もしそうなれば資源価格は今以上に高騰し、脱炭素だけでなく、コロナに苦しむ世界経済の足までも引っ張る恐れがある。
<2021.8.22 日本経済新聞より>
需給バランスにより相場変動は仕方ないが、あまりにも投機的な思惑が強すぎて、過剰相場になってしまっている。鉱山への増税よりも投機で得た利益に大幅な税を課すルールが出来れば、適正相場が保てるのではないかと素人なりに考えます。